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「エルメス」の『バーキン』

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高級バッグのクレイジーな経済学

結論から言えば、バーキンに投資するより、エルメスの株に投資した方が賢明だ。2010年から、株価は20倍に成長している。それをふまえて、このエルメスのバーキンというバッグについての記事が面白かったので取り上げてみた。

ファッション界で最も目立つ富の象徴だが、投資する価値はあるのか

近くのエルメス店舗で、ハンドバッグ「バーキン」を買い、それを転売すれば、5分で価格が倍になる。だが、世界で最も入手困難なハンドバッグを手にいれるプロセスは、想像以上に複雑だ。

ベーシックなブラックレザーの「バーキン25」の価格は、エルメスの店舗で、税抜き1万1400ドル(約180万円)。購入者はすぐに2万3000ドルでプリヴェ·ポーターのようなハンドバッグ転売業者に売り渡すことができる。その後、プリヴェ·ポーターはインスタグラムや、ラスベガスのポップアップストアで最高3万2000ドルで販売する。

エルメスの製造原価は約1000ドルとアナリストは推定する。

常軌を逸した「バーキン経済学」は、客と店員の力関係をひっくり返した。エルメスの店舗では、媚びへつらうのは客の方だ。

世界で最も裕福な女性の中には、『手作りクッキー』でご機嫌を取ろうとする人もいる。ビヨンセのコンサートチケットや、プライベートジェットで行くカンヌ国際映画祭への旅、現金を詰めた封筒ーー全てはバーキンを手にいれるための贈り物だ。

希少な、このハンドバッグを手に入れるため、8万7500ドルのカヌーなど、特に欲しくもないエルメス製品に大枚をはたく人もいる。

発売から、今年で40年のバーキンは、もはや現象となりつつある。バーキンを持つということは、ハンドバッグに1万~10万ドルを投じる余裕があると暗に示すことだ。

バーキンは、エルメス創業者一族の1500億ドルの資産を支えている。だが、富を得ているのは彼らだけではない。世界中の転売業者も利益を得ている。

バーキンが初めて店頭に並んだのは1984年。俳優の故ジェーン·バーキン氏と、当時エルメスのCEOだったジャン·ルイ·デュマ氏がロンドン行きの飛行機で出会ってから、数年後のことだ。

バーキン氏が丁度いいサイズのハンドバッグが見つからないと愚痴をこぼし、二人は飲み物に付いてきたナプキン、あるいはエールフランスのエチケット袋に一緒にデザインをスケッチしたと言われている。

エルメスは新製品にバーキンの名を冠し、彼女に年間使用料を支払った。

バーキン誕生にまつわるエピソードは、その魅力の一部であり、競合他社がその成功を再現するのが難しい理由の一つである。「素晴らしい物語だ」と、仏ビジネススクールでマーケティングを教える教授は、話す。「そのような出会いのセレンディピティー(偶然による幸運)」と、憧れの対象だった女性が、デザインに直接関与したことを消費者は好むのだという。

バーキンは、すぐには売れなかった

1990年代初め、客はエルメスの店舗に行けば、陳列されているバーキンを買うことが出来た。当時は元の価格以上で転売されることはなかった。

だが、2008年~09年の金融危機後に何かが変わった。現在はオンラインマーケットプレース「1st Dibs」の最高商務責任者(CCO)を務め、バーキン転売の可能性を最初に認識した一人である、マシュー·ルービンガー氏はそう指摘する。最低水準の金利は、より多くの資金が市場で流動することを意味し、その資金は「代替資産」へと向かい始めた。

また、景気が低迷している時に毎シーズン新しい「旬なバッグ」を身に付けるのは悪趣味だと言われるようになった。そのため、バーキンのような、ロゴのないデザインが強みとなった。ルービンガー氏は競売大手ヘリテージ·オークションズとクリスティーズでハンドバッグ部門を立ち上げ、数百万ドル規模のビジネスに育て上げた。

希少なバーキン「ヒマラヤ」が、オークションで記録を打ち立て始めると、人々は注目した。

「10万ドルを超え始めると大ごとになっていった」と、ルービンガー氏は言う。

現在、エルメスの店舗で、バーキンを買い求める客は難関を難関を突破しなければならない。まずは販売員と良好な関係を築く必要がある。

次にシルクのスカーフや、時計、靴など、バーキンを買う「資格」を得るために他の高額商品を買わなくてはならない。バーキン収集家は、そう口をそろえる。

フランスから、店舗にバーキンが届くと、皮革製品のマネジャーは、個々の販売員にそれを割り当てる。バーキンを購入したい富裕層の顧客リストを持つ販売員は誰に売るのがふさわしいかを主張し、最終的には、マネジャーの承認を得る必要がある。

このため、エルメスの最上客が、最初にバーキンを手に入れることが出来るという認識が広まっている。エルメスはバーキンを「価値のある」顧客にしか販売せず、他の商品を購入することをバーキン購入の条件にしていると主張する客2人からカリフォルニア州で訴えられている。エルメスは最近の裁判所への提出書類のなかで、バーキンを購入する前に他の商品を購入する必要はないと、している。

他の商品にいくら使えば、バーキンを買えるのだろうか?バーキン収集家によれば、明確なルールはないが、ほとんどの人は、エルメスのスカーフや、靴、洋服に1万ドル以上の出費をしてから、ベーシックなタイプのバーキンを手にすることができるという。

「ヒマラヤ」のような希少なバーキンを手に入れるには、20万ドル以上の出費が必要かもしれない。

これは、バーキン収集家の間では、エルメスの「事前支出」あるいは「支出率」として知られる。エルメスはこれを明言することはないし、このような言葉を使ったこともない。しかし、バーキン購入希望者は販売員から、「もっと頻繁に来店する必要がある」と言われたことがあると言う。転売業者によれば、エルメスの販売員は、バーキンを売ることで成果報酬は得られないが、バーキンに対する飢餓感を利用して、販売すると報酬が得られる他の商品を売るという。

客は数万ドルを費やしても、欲しいサイズや色のバーキンを提供されない可能性がある。これは、転売業者にとって絶好のチャンスとなる。

エルメスで定期的に買い物をしている女性が、赤色のバーキンを欲しいのに、緑色を勧められたとしよう。女性は、不満な態度を示すのではなくーーーバーキンを手に入れるには、販売員を味方につけておくことが重要なためーーーそのバーキンを買う。転売すれば利益が得られることを知っているためで、その後、赤いバーキンの入手に期待をかける。

エルメスは上客がバーキンを転売していることを知っている。レシートの細かい字を読むと、エルメスは顧客に対し、「エルメス製品を営利目的で購入し、直接または、間接的に転売」しないことを求めている。エルメスのブラックリストに載ることを恐れ、転売業者にバーキンを売った経験を記者に実名で語ろうとする人はいなかった。

プリヴェ·ポーターの創業者ミシェル·バーク氏によれば、転売市場はバーキンを今すぐ購入できる場になっている。欲しい色のバーキンをすぐに入手できるなら、高額な上乗せ価格を支払っても構わないと思う人もいる。

転売業者はかつて旅客機の客室乗務員らに報酬を支払い、世界中のエルメス店舗でバーキンを購入させていた。現在はエルメスのVIP顧客から大半を仕入れている。

エルメスの商品は中古市場で転売される新品が異常に多い。これも顧客が本当に欲しいわけではない商品の販売をバーキンマニアが促進している可能性の現れと言える。高級ブランドの転売サイト「ザ·リアルリアル」が提供するデータによれば、ハンドバッグ以外のエルメス商品のうち、35%が新品の状態だという。一方でルイヴィトン、グッチ、プラダ、ボッテガ·ヴぇネタ、サンローランなど、他ブランドでは平均20%だった。

なぜ女性はーー最近では男性でも増えているがーーバーキンに飢えているのだろうか?ハンドバッグに巨額の出費をする理由のひとつは、バーキンが投資に適しているからだ。だが、本当にそうだろうか?正規店で購入したバーキンを転売した場合の利益は、バーキンを購入する「資格」を得るために他の商品に費やした金額を考慮すると低くなる。

転売業者から仕入れたり、クリスティーズのオークションに出品されたりしたバーキンは、すでに大幅な上乗せ分が価格に織り込まれているため、上昇幅は限られている。アート·マーケット·リサーチのデータによると、2010年にオークションで落札されたバーキンは現在、約50%高い価格で取引されている。コンテンポラリーアートや、時計、クラシックカーは総じてそれよりも高い上昇率となっている。バーキンのハンドバッグよりも、エルメスの株を購入する方がはるかに賢明な投資であり、株価は2010年から、20倍余り値上がりしている。

ライバルの高級ブランドも手をこまねいてはいない。ルイヴィトンは最近、100万ドルのハンドバッグを発売した。シャネルは定番のフラップバッグの価格を4年間で、ほぼ2倍に引き上げ、より高級なものにした。

しかし、今のところ、バーキンの地位は安泰のようだ。手にいれたいなら、エルメス店舗で頑張った方が良い。